売上が1億円のクリニックを経営する医師の手取り収入は?

これからクリニックの開業を予定されている先生は、ご自身の手取り収入がいくらになるか、気になることでしょう。
今までの勤務医としての手取り収入を超えないと、開業する意味が無いとお考えの先生もいらっしゃることと思います。
そのお気持ちはよくわかります。開業をしてリスクを取ってクリニックを経営するわけですから、手取り収入が増えないと、開業をする意味がありません。
この記事では、売上が1億円のクリニックだと、先生の手取り収入がどの程度の金額になりそうかをご説明いたします。
また、売上高がその半分の5,000万円でも、売上高が1億円のときと同じ手取り収入が得られる、クリニックを経営する医師だけが利用できる特別な税法「特措法」を利用した開業方法もご紹介します。
同じ手取り収入が得られる2つの働き方がありますが、どのような働き方を希望するのか、先生のライフプランに合わせてお選びください。
売上が1億円の手取り収入の試算

年間の売上が1億円のクリニックの場合、先生が得られる手取り収入を試算したいと思います。ここでご紹介する金額は、もちろん医薬品などの購入費用のかかる診療をするのか、心療内科のように経費のかからない診療をするのかによっても異なります。
試算の想定
東京都内のM市で勤務医として働いている、40代女性の先生を想定したいと思います。診療科目は産婦人科です。毎日忙しく、ほとんど休みもなく働いており、2人のお子様の中学受験も控えている状態です。
今の手取り収入を維持しながら医師を目指しているお子様の学費も得つつ、子育てにも専念したいと考えています。
そして、ご自宅から自転車で通える範囲のところの駅前に、立地条件のよいテナントを見つけることができたので、そこで産婦人科クリニックを開業することになりました。
家賃は毎月60万円のところを借りたとします。少し大きなテナントです。それを運営するスタッフさんには、常勤が3人、パート勤務が2人です。すると人件費は毎月120万円ほどかかります。医薬品や診療材料、外注検査費、水道光熱費や電話代、医療機器の保守費、税理士の顧問料などへの支払いといった、各種の経費が、毎月120万円かかったとします。
固定費と変動費

手取り収入を試算する前に、クリニックを経営したときにかかる経費についてご説明します。経費は、固定費と変動費の2種類に大別できます。
固定費とは、患者さんを診療した人数に関係なく、毎月定期的に固定で支払う費用のことです。例えば、テナントを借りたときの家賃や水道光熱費、人件費、医療機器の保守費、広告代や電話代などです。
次に変動費とは、患者さんを診療したときにかかる費用です。例えば、医薬品や診療材料、外注検査の費用などといったものです。患者さんを多く診療すればするほどかかる費用ですが、売上に伴って発生する支払いなので、この費用を削ることはできません。
このように、患者さんを診療した人数に応じて変動する費用ということで、変動費といわれます。
ここでは、「固定費と変動費という経費がある」ということを覚えておいてください。
1億円を売り上げたときの毎月の手取り収入
患者さんを診療することで得られる診療報酬の合計である売上高から、患者さんを診療するときに必要となる変動費を引いたものが、粗利益です。
粗利益から、クリニックを維持するための家賃や人件費、水道光熱費などの毎月一定金額でかかってくる固定費を引いたもの。それが営業利益といわれるものです。基本的に営業利益が先生の年収になり、そこから社会保険料や所得税などを引いたものが、先生の手取り収入となります。
さて、年間の売上高が1億円だったときの手取り収入を計算していきましょう。年商が1億円となると、休みなく働き、毎日80人以上の患者さんを診療したときに得られる金額です。その変動費が15%ほどかかったとすると、年間8,500万円が粗利益となります。
そこからテナント代が毎月60万円×12ヶ月、スタッフのお給料が120万円×12ヶ月、その他の経費が120万円×12ヶ月ですから、固定費の合計が3,600万円。粗利益から固定費を引いた営業利益は、約4,900万円となります。つまり、「売上高が1億円あれば、年収は約5,000万円」となります。
この金額に社会保険料や所得税・住民税などが引かれ、残った金額が手取り収入となります。その金額は約3,000万円、月々の手取り収入は約250万円となります。この金額から借入金の返済を行うので、実際はもっと低い金額となります。
おおまかに言えば、「年間の売上高が1億円の場合、先生の年収は約5,000万円、実際の手取り収入は約3,000万円」と覚えておいてください。
売上が5,000万円で同じ手取り収入を得る方法
次に、売上高が5,000万円で同じくらいの手取り収入を得る方法をご説明します。その方法とは、「特措法を活用したミニマム開業」という開業方法です。
特措法とは?

特措法とは、「租税特別措置法第26条」の略で、簡単に言えばクリニックを開業される先生のために税金の多くが免除されるという法律です。具体的には、「売上高の約70%が経費として認められるので、実際に支払った費用との差額を自分の手取り収入にして良い」という、特別な税法です。このように「経費はザックリ7割で」としてしまえることを、「概算経費」といいます。
ただし、売上高の上限があり、年間の保険診療が5,000万円までとなります。仮に5,000万円を売り上げた場合、その経費は普通に計算すると、2,000万円ほどかかったとします。すると一般の事業所の場合には、3,000万円の所得を申告しなくてはならないのですが、特措法を活用すると、概算経費で7割が経費として認められるわけですから、税務署には「3,500万円かかりました」と申告ができるわけです。
実際にかかった経費が2,000万円、申告をするときの概算経費の金額が3,500万円ですから、その差額の1,500万円は税務署に申告する1,500万円に加えて、先生の手取り収入に追加できます。この結果、1億円の売り上げを上げる先生の半分しか働かなくても、同じくらいの手取り収入を得ることができる開業医だけが優遇されているお得な法律なのです。
ミニマム開業とは?
またミニマム開業とは、クリニック経営でかかる経費を必要最小限となるようにしてリスクを下げつつ、特措法を上手く適用して手取り収入を最大化する開業方法です。
クリニックでかかる必要経費の大きなものは、次の2点です。
- 1.家賃
- 2.人件費
家賃を下げる方法は、準備する医療機器を最小限のものとして、小さなテナントでクリニックを開業することです。そして予約制にして、スタッフさんはパート勤務の受付職員を1人だけ置くようにします。
「経理担当者や事務長さんは?」と思われた先生もいらっしゃるかもしれませんが、常勤ではスタッフを雇いません。また、経理に関する作業も必要ありません。なぜなら概算経費で「約7割」の経費と決まっているからです。そのようなことで、税理士や会計士と契約することもなくなり、その委託費も必要なくなってしまいます。
そして、予約制にしておけば、先生は好きな時に休みを取ることができますから、子育ての時間も無理なく取ることができます。
試算の想定
さて、ミニマム開業での条件を検討したいと思います。条件は、先ほどの女性医師と同じ条件としましょう。40代女性で皮膚科クリニックを開業することを想定して、クリニックの経営に必要な変動費は10%とします。
ミニマム開業ですから、クリニックの大きさが少し小さくなり、家賃は月間30万円とします。先ほどの1億円での試算の半分くらいの家賃に入居します。スタッフさんパート勤務の受付職員を1人とすると、人件費は月に20万円くらいになります。その他の経費は30万円程かかったとします。年間の固定費の合計は、約1,000万円になります。
特措法を活用したミニマム開業での手取り収入

売上高が年間4,000万円と仮定します。特措法では年間5,000万円までが適用できる限度額です。変動費が10%ですから400万円となり、固定費は1,000万円です。その合計1,400万円が、実際にかかった経費となります。
特措法で認められる概算経費は、約2,800万円です。実際にかかった経費は1,400万円ですから、その差額は1,400万円となります。この1,400万円は、特措法を利用することで「税金のかからない手取り収入としても良い」という仕組みですから、第1の手取り収入となります。
次に税務上の手取りを計算しましょう。売上高から概算経費を引くと、みなしの利益は1,200万円となります。これが税務上の収入になり、先生の年収は「1,200万円」ということになります。ここから所得税や住民税などが引かれます。すると残りは、約900万円になります。これが第2の手取り収入となります。
第1の手取り収入と第2の手取り収入の合計が、実際に先生の手元に入る手取り収入になるので、その合計は約2,300万円、月々ですと約190万円となります。先生の年収は1,200万円なのに、手取り収入が2,300万円となります。
特措法を適用できる売上の限度額までは、また1,000万円の余裕がありますので、売り上げを上げることができれば、毎月の手取り収入を250万円程度まで引き上げることも可能です。
ミニマム開業をしていますから医療機器も含めた設備投資は最小限になります。そのため、借入金も少なくて済むので、返済額も小さくなります。その結果1億円の売り上げを目指した開業と比べてもミニマム開業では同じくらいの手取り収入を実現することが可能となります。
売上高は1億円が良いか?5,000万円が良いか?
毎月の手取り収入の比較

上記の試算は、あくまでも一例として挙げたものですから、診療科目や開業する場所によっても違ってきます。実際には開業する場所を決めてから詳細な事業計画を立てることで先々の見通しが可能となります。
さて、1億円を売り上げたときの毎月の手取り収入がおよそ250万円でした。そして5,000万円の売上高の手取り収入も約250万円でした。先生がお一人で診療をするとなると、1億円の売上高では、ミニマム開業をしたときと比べて2倍もの仕事量をこなさなくてはなりません。
2倍の仕事量をこなしたのにもかかわらず、手取り収入は増えていませんので、「何のために沢山の仕事をするのだろうか?」ということになりかねません。また、ご家族と過ごしたり子育てに当てる時間も取りにくくなることと思います。
経営リスクの問題

年間に1億円の売上高を得るためには、高額な医療機器の導入といった設備投資が必要となります。皮膚科であれば、美容皮膚科も診療内容に入れた方が売上が高まるため、レーザー治療機などの高額な医療機器を導入することになります。
設備投資の金額が大きくなると、それだけ売上高を多く得ないと、赤字になってしまいます。売上高によって黒字になるか赤字になるかの分岐点のことを、「損益分岐点」といいますが、固定費の金額が多くなると、損益分岐点が高くなってしまい、多くの患者さんを診療して売上を上げなければ、黒字になりにくくなります。
経費をできるだけ少なくする開業方法であるミニマム開業ですと、設備投資も低額になるので、あまり多くの患者さんが来なくても黒字になりやすくなります。開業の仕方にもよりますが、当社の支援実績で、1日に10人ほどの患者さんを診療するだけで黒字になるクリニックもありました。
バリバリ働きたいかどうかの問題

年間に1億円の売上高を得るためには、バリバリと働いて売上高を上げることが求められます。そのため、「経費を払うために働いているようなものだ」と感じるようにもなるでしょう。勤務医時代以上に忙しく感じることもあります。しかし、クリニックの経営者であるため、経営のリスクも先生が背負うことになり、勤務医時代よりも精神的負荷は大きくなります。
ミニマム開業であれば、患者さんの数が少なくても黒字になりやすいため、のんびり働いていても早めに黒字になります。そして、予約制にしておくことで、学校行事などの子育てのために必要な時間は予約が入らないようにしておくのです。そのようにして、働く時間を自由に決めながら、多くの手取り収入が得られるようになります。
子育てをしながら医師としての仕事をしたいのであれば、売上高5,000万円までのミニマム開業をお勧めします。
ミニマム開業で失敗しないためのポイント
ミニマム開業で失敗しないためのポイントを、もう少し詳しくご説明いたします。
立地条件の良い場所で開業

ミニマム開業での開業場所は、基本的に駅前などの人通りが多い立地条件の良い場所を選びます。そのような場所は、テナント賃料の坪単価が高いのですが、坪単価が高い場所の方が集患しやすいからです。
そして、坪単価が高い場所でも、テナントの坪数が小さい場所を選ぶことで、毎月支払う家賃の総額を抑えることができます。
「坪数が小さければ、色々な診療が出来ない」とお考えの先生もいらっしゃいます。もし「ミニマム開業を止めて、バリバリ働きたい」という気持ちになったら、それまでにはミニマム開業で成功した資金を元手にして、近所で広い物件を探して引っ越しをされたら良いと思います。
一番駄目な考えは、「将来大きなスペースが必要になるかもしれないから、広めの物件を借りておこう」という考えです。スタッフルームや院長室などもあれば便利ではありますが、そうしたスペースは利益を生み出しませんので、坪単価の高いテナントのスペース内に作ることは避けた方が良いでしょう。
スタッフはパートの受付職員を1人だけにする

ミニマム開業をしたときのスタッフの人数はパート勤務の受付職員1人だけにします。「スタッフを1人でやっていけるのか?」と驚かれる先生もいらっしゃいますが、心療内科などの場合には受付のスタッフさんお一人で運営されている先生もたくさんいます。
診療科目によっては看護師さんも含めて複数の職員さんが必要な場合もありますが、予約制にしておけば、患者さんの来院数も安定してきますので、スタッフさんの業務量も平均化することができて一定してきます。また、予約患者さんの診療計画も予め立てることができて、無駄のない効率的な診療を行うことができて、少ない人数でも効率の良い仕事ができるようになります。また、概算経費を活用することで、領収書などを集めて経理の帳簿を作る必要もありません。売上高の集計などは電子カルテで把握できます。
子育てをしているスタッフさんにとっても、ミニマム開業はとても都合が良いのです。なぜなら、「子育てをしているけれども、看護師や医療事務として働きたい」という人もいるからです。そのような人も、先生と同様に、朝と夕方の時間は家庭で子育てに使いたいという希望がありますから、先生と同じ勤務時間で無理なく働くことができるのです。
ときどき開業を目指される先生から、「同じ病院に勤務していた知り合いの看護師さんが『手伝いたい』と言っているから雇っても良いか?」というご相談があります。しかし、そういった知り合いは、たいてい「常勤で努めたい」という要望を持っています。常勤で雇う場合には、それだけ人件費が多くなり、先生の手取り収入を下げてしまうことになるので、おすすめできません。
ミニマム開業をされる場合は、その知り合いに「常勤でなく、パート勤務としてなら雇うことができる」とお伝えください。クリニック経営では、時には人情よりも合理的な考えを優先し、ムダを削らないといけない場合があるのです。
高額な医療機器は極力少なく

高額な医療機器が多いと、それだけたくさんの診療をすることができるので、「売上高が上がるのではないか」とお考えの先生は多いです。しかし、開業したばかりの時期で患者さんが少ない段階で、高額な医療機器があっても、稼働率が低くなってしまい、せっかくの設備投資が赤字を生む原因ともなってしまいます。
先ほどご説明したように、設備投資の金額が大きいとそれだけたくさんの患者さんを診療しないと黒字になりません。また、借入金の金額も大きくなり、返済のための負担も大きくなります。
まずは最低限必要な医療機器だけでスタートして、患者さんが増加して必要性を感じてから採算性の高い医療機器の導入を検討なさると良いと思います。
以上、売り上げが1億円のときの先生の手取り収入と、特措法を活用したミニマム開業での手取り収入を試算しました。売上高が2倍も違っているのにもかかわらず、手取り収入は同程度で、しかも働く時間を自由に決めて、すきなときに休むこともできます。
ミニマム開業は、子育てをしたい女性医師や、定年退職後の先生にとっても、とても相性の良い開業方法です。
もし先生が、東京23区やその周辺都市でミニマム開業をしたいとお考えであれば、オクスアイまでお気軽にご相談ください。当社では、無料のクリニック開業Webセミナー&個別相談会を開催しています。
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